RAY KURZWEIL

特異性の時代を語る男

INTERVIEW BY ROCCO CASTORO
PHOTOS BY JESPER DAMSGAARD LUND



もしレイ・カーツウェルの考えが正しければ、2050年にはオレたちの毛細血管をナノスケールのロボが行き交い、人間は非生物的なモノへと進化しているという。全知全能を持ち得た上いくら食べても体重は増えず、肉体をおおよそどんなカタチにも変形させることが可能で、病気知らずで死にたい時に死ぬことができる。これら全てはカーツウェルが“シンギュラリティー(特異性)”と呼ぶ真の人工知能によって実現され、あらゆる面でマシンが人間を上回るらしい。彼はそれらがそう遠くない未来に実現すると予想する。ちっぽけなオレたち人間では想像もできない方法でコンピューターは独自のソースコードとハードウェアを向上させていく。これこそ、人類とその創造物との融合を現実にするテクノロジー革命なんだ。

きわめてスケールの大きいこれらの予測は「天地創造以来テクノロジーは指数関数的に進歩している」と提唱するカーツウェルの“加速する成果物の法則”にのっとっている。コレは科学オタクにしか理解されないような概念であるものの、指数関数曲線の“臨界点”に着目すれば分からなくもない:つまりそれまで2倍速の進化を辿っていたテクノロジーの進化速度がココを起点として急上昇するってことだ。この理論は経済学者なんかが長年頼りにしてきた線形モデルを否定することを意味する。カーツウェル曰く「人類は今まさしくこのカーブに差し掛かっている」とのこと。人類史に亀裂が入ってしまうほど、すさまじい度合いで進歩しているらしい。つまり人類は自然を超越して進化を自らコントロールするようになるってことか。神様の悔しがる顔が目に浮かぶぜ。

カーツウェルの代表作『The Singularity Is Near: When Humans Transcend Biology(シンギュラリティーの接近〜人が生物の限界を超越する時〜)』では、まるで本当に起きたことを述べるかのごとく事細かに、そしてショッキングなほど異様な調子でこの過渡期に関する大筋が説明されている。コレが出版されたのは2005年のことだ。まだ最近のことのように思えるかも知れないが、2005年から今日までに起きたあらゆる技術的進化を踏まえると、核レベルでのテクノロジー革命だってそう遠くはない。Twitter、iPhone、Facebookへの書き込みだって、その兆候の現れとも受け取れる。実際、4年前の技術を今振り返ってみると古さは否めない。テクノロジーがこのまま猛スピードで進化を続け、もしカーツウェルの予測の3割でも現実化するとすれば、もはや『バック・トゥ・ザ・フューチャーII』の世界でさえ『猿の惑星』のように映る世の中になっていることだろう。

カーツウェルを“エジソンの正当な跡継ぎ”と呼ぶ声もあるが、前世紀にカーツウェルが発明した数々の実用的な技術を考慮すると、コレは決して誇張ではない。プリント文字を音声に変換する盲人用光学機器、CCDフラットベッド・スキャナー、音声認識ソフト、アコースティック音とまるで区別がつかない初のシンセサイザーetc……。この他、オレたちではとうてい理解できないような数多くの発明の全てが彼の頭の中から生まれた。そんな彼だけに、如何にも隠れ家のような未来的かつ無重力のラボでサイボーグらしきスタッフに囲まれながら仕事をしているのでは……と想像しがちだが、そうした予想に反して、マサチューセッツ州はボストンの外れ・ウェレスリーにある彼のオフィスは実に質素なモノだ。家具に関して言えば、まるで80年代後半から一切買い換えていないかのよう。彼の机を取り囲むかのように積み上げられた本のスキマから、紺色のしわくちゃジャケットにスラックスを穿いたカーツウェルが姿を現した時、自ら30分以上インタビューを遅らせたにも関わらず、僕の姿を見た途端、まるで不意を打たれたかのように驚いていた。彼の第一印象は“控えめな人”といったカンジ。彼と会って真っ先に気づくのが、プラスチックのようにツヤツヤしたその肌だ。彼は言う、食事で“ホスファチジル・コリン(年取るにつれ破壊されていく細胞膜の主成分)”を補給しているおかげだと。しかしそれだって、時の流れに逆らうために彼が日々摂取している100種以上のビタミンやミネラル、あるいはサプリメントのうちの1つに過ぎないんだ。彼の目標は“自分の予言を実現させるために長生きすること”。どうやら今のところ上手くいっているようだ。彼は人間というよりマシンに近いかもしれない。インタビューの終わりに差し掛かった頃、彼は席を立って休憩を取りに行った。そして10分して戻ってくると、まるで難しい定理でも計算するかのように目をグルグルと回してから(どうやら目の体操らしい)、中断した話の続きのワードから正確に再開してくれた。そんなワケだから、もし彼自身のカラダに神経の人工増強やなんらかの生物学的アップグレードを施されていたとしても驚かない。逆にそう告白してもらった方が、オレたち凡人と彼の知性の差の説明がつくから安心するぜ。とにかく、多くの人が把握していないことを沢山知っているカーツウェル。そんな彼の話をじっくり聞かないワケにはいかない。

Vice:“シンギュラリティー(特異性)”は夢のようにステキな話だけど、世界経済が“破裂した汚水処理タンク”みたいになった今、30年後の未来に関心を寄せる人は多くない。2005年にあなたは「デフレなんて些細な出来事に過ぎない。近い将来、状況は良くなっているハズだ」と指摘していた。現状とのこのギャップをどう説明できるかな?
レイ・カーツウェル:
“不況”、あるいはちがう呼び方でもかまわないが、コレが指数関数的に成長するITの進歩に影響することはないんだ。ITは今後も成長していくだろう。実際、世界大恐慌を含むこれまでのあらゆる不況がITの進歩に影響を及ぼしたという例はない。新しいiPhoneは昨年の旧型に比べると2倍のパワーが持つが、その価格は半値となっている。Appleが優れているのはもちろんだが、要因はそれだけではない。こうした現象はあらゆる電化製品にも共通しているんだ。なにも電化製品に限った話ではない。情報の存在する、ありとあらゆる側面で同じことが言える。脳スキャニングであろうと、有機技術であろうとね。極端な話、こうした技術は最初こそ費用が掛かり過ぎて思うように開発が進まないモノだが、次第に費用がかからなくなって大成功するんだよ。例えば、一昔前では高価だった携帯電話を今では世界人口の半分が所有している。つまり、それ自体がインフレの動きを制御するデフレ機能なんだ。だからこそ極端なインフレがない。

なるほどね。だけど過去半年のあいだに一時解雇となったオレの知人たちのほとんどが、新しいiPhoneを購入する余裕なんてない。彼らは今や最低限必要なモノのことしか考えることができない
人々はこう言う、「ITもたしかに生活のほんの一場面では必要かもしれないが、食べ物や家だって必要なんだ」とね。しかし旧情報化社会からポスト情報化社会へと変化するに連れ、そうしたモノもいずれIT化されていくんだよ。現在すでにそうした動きに取り組んでいる重要な産業分野として、医療と薬品を挙げられる。遺伝子情報はすでに解読されているから、コンピューターで介入技術を設計して生物学的シミュレーターでテストし、赤ん坊のみならず成人の遺伝子が持つ特定の情報を無効にさせたり、ちがう遺伝子で不良箇所を補うことも可能となるだろう。極端な話、“情報処理による分子レベルでの物質とエネルギーの再構成”といった単純な仕組みで本格的なナノテクノロジーは誕生するだろう。コレが実現すれば、ありとあらゆるモノをメールで送れるようになるんだ:トースターやトースト、あるいはブラウスやソーラーパネル、家や乗り物を造るためのモジュール、とにかくなんでもだ。現在では物質的な製品として認識されているモノが、将来的には情報ファイル、つまりメールの添付ファイルへと成り変わる。コレは特定の分野においてすでに実現しているね。10年前に映画を送ろうモノならFedExで郵送する必要があったが、今ではメールに添付して送ることが可能だ。音楽ファイルや本だって変わらない。本来的に物質的なモノを今では情報ファイルとして送ることができるんだ。

コンピューターが人間の知能を上回るようになるまであとどれくらいの年月がかかるのかな?
人間が持つような知能や柔軟性は今のマシンに備わっていないが、コレを解明していくカギは人間の脳の働きを知ることにある。この分野もまた指数関数的に進歩していると言えよう。2029年には脳の各部位のモデルとシミュレーションが全て完了するだろう。そうすればソフトウェアのテンプレートが作成され、人間の知能のアルゴリズムを網羅することができるハズだ。その結果、マシンが独自にソースコードにアクセスし、より賢くなろうと勝手に設計を重ねていくようになる。







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This girl looks like Silly Putty except, instead of pushing it on to the Sunday Funnies to get pictures on it, she got smushed all over the 80s.

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