MOVIE REVIEWS

BY 駕籠真太郎


『ダイアリー・オブ・ザ・デッド』


人はなぜカメラを回すのか? それは、目の前で起きている事態を記録したいからである。

 ……通りを歩いていると、モノスゴいクラッシュ音。トラックと軽自動車の衝突事故だ。こんなときカメラが手元にあれば、誰もがまず目の前の現場を撮ろうとするだろう。プロの報道記者やカメラマンはもちろんのこと、素人だって、とりあえずは録画スイッチを ON にするはず。軽自動車の方の運転手はどうやらまだ息があるようだが、血まみれで苦しそうだ。救急車! ああ、呼ぶ必要があるだろう。しかしそれ以前に、これは非日常の光景を記録するまたとないチャンス。あっ、でも残念!

デジカメもビデオカメラも持っていないや。だけど僕たちのポケットの中にはいつだってケータイが入っていて、最近の機種なら写真もムービーも撮れる。ラッキー! さあ、ショータイムのスタートだ! 救急車なんて、きっと誰かが呼んでくれるさ。

 本作の主人公ジェイソン・クリードは大学の映画学科の学生。単位を得るため、卒業製作のホラー映画を仲間たちと撮影している。安上がりメイクでこれまたショボい演技を繰り広げる友人・リドリー扮する “ミイラ男” をフィルムに収めるため、林の中でカメラを回していたジェイソン。だが、その撮影後にラジオから流れてくる緊迫したニュースを聞いたとたん、彼の興味の矛先は方向転換する「死んだニンゲンが蘇ってゾンビになって、街の人を襲ってるって?!」 もともとドキュメンタリー作家志望だったジェイソン。 “世の中に真実を伝える” という使命感に火がつき、前代未聞の事態の一部始終を記録せんとカメラを回し始めた……。

 『ゾンビ』『死霊のえじき』『ランド・オブ・ザ・デッド』など、つねに世間のゾンビ映画を牽引してきたジョージ・A・ロメロ監督。1968年の『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』にてロメロ監督が確立したゾンビ像は瞬く間に世界中を震撼させ、それを追うような形でB/C/Z級、あるいはクズ映画からパロディ物まで、数多くの亜流ゾンビ映画が世に生み出された。 “マスター・オブ・ゾンビ” こと、ジョージ・A・ロメロ。彼による最新ゾンビ映画『ダイヤリー・オブ・ザ・デッド』は、 “動き出した死体を記録することに取り憑かれた男の物語” である。

 本作は全編にわたって手持ち撮影で構成されたいわゆるカメラマンの主観映像であり、 “カメラを持つジェイソンおよびその仲間が撮影した事件の映像記録をさらに後日編集したドキュメンタリー作品” という形式を採用している。つまりこの映画は疑似ドキュメンタリーなわけだが、同様の手法を用いた作品はこれまでも多く存在し、古くはイタリアのカニバリズム映画『食人族』、そして内容の真偽をめぐって大きな波紋を呼んだ低予算ホラー『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』、最近では首なし自由の女神がインパクト大の『クローバーフィールド』などを挙げることができ、いずれも例外なく大ヒットした。カメラマンの一人称で語られるために緊迫感を効果的に観客へ与えることができ、ホラーなどの恐怖演出でその真価を発揮する。

 では本作でも心拍数が急上昇するような恐怖を味わうことができるのか? 答えは否である。『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』には “姿の見えない魔女” 、『クローバーフィールド』には “問答無用の破壊を繰り広げる巨大怪獣” が存在した。一方で本作に登場してくるゾンビの場合、しょせんは腐敗も進行している死体なので動きも緩慢極まりない。よほど油断していない限り、走って逃げてしまえば何とかなりそうだ。

 この映画は失敗作なのか? いやいや、そういうわけでもないのだ。この映画における主題、それは富士急ハイランドの絶叫マシンのような恐怖を体感させる

ことではない。 “マスター・オブ・ゾンビ” ことロメロ監督の関心はもはや動く死体になく、むしろ動く死体を撮ることに熱中するジェイソンの姿に向けられている。

 死んだ人間が突如として動き出し、生きた人間を食い殺す。そんな様子をジェイソンはひたすら撮りまくる。たとえ仲間が襲われようとも、助けもせずに目の前の現実をフィルムに収め続ける。ガールフレンドのデブラに非難されようとも怯むことはない。なぜジェイソンはそこまで記録にこだわるのか? 「決まってるだろ、そこに死体が動いているからさ!」

 死体とは本来動かないモノだ。鼓動はストップ、脳細胞も活動停止。死んでいるのだから、動かないのが当たり前。たぶん、これは世界共通の常識。しかし眼前の死体が動いているのもまた、歴然とした事実。黒子が後ろで死体を操っているわけでもなく、ましてやワイヤーで吊られてもいない。ヤべーよ、これ。マジありえねー。とりあえず記録するしかないでしょ。友人集めて上映会やれば大ウケ間違いなし。 YouTube にアップすれば、万単位のアクセス数も目じゃない。テレビ局にも高額で売りつけてやる。間違っても「もしかしたら自分が食われるかもしれない」なんてことは予想だにせず、「どんなことがあろうと自分だけは助かる」と、ついつい思い込んでしまう。それが人間というおめでたい生き物。

 そんなジェイソンの姿こそ、交通事故現場において惨状をケータイで撮影している我々そのモノだ。日常のニュースでも、野次馬が被害者をケータイやデジカメで撮っている姿をしばしば見かける。はたから見たら「助けもせずに不謹慎な!」と思うかもしれないが、実際に現場にいたら記録に対する欲望はきっと抑えられないはずだ。あるいは「助けようにもこんな状況じゃムリだし、自分にできることはない。せめて世間にこの事実を伝えよう」なんて都合のいいように考えてしまうかもしれない。そう、まるでジェイソンのように……。

 そもそも映画とは、動く物をフィルムに記録したもの。リュミエール兄弟が世界で最初の映画興行で上映したのも、『ラ・シオタ駅への列車の到着』における “駅に到着する汽車” や、『工場の出口』での “工場から出てくる労働者たち” だった。そこに動きがあるからこそ彼らはカメラを回し、記録した。微動だもしない汽車を動画で撮ったって、それはナンセンス極まりない行為。そんなのは写真で十分。つまり、極言すれば『映画=動き』なのだ。リュミエール兄弟の映画が初公開された1895年パリのグラン・カフェで観客は迫りくる汽車の映像に度肝を抜かしたらしいが、これも汽車に動きがあったからこそのもの。この当時、死体の動き出す事件が発生していれば、それこそリュミエール兄弟は即座に死体へカメラを向けていたであろう。ジェイソンこそ、リュミエール直系の子孫と言える。

 それにしても見たかった、リュミエール兄弟によるゾンビ映画。工場の出口から出てくるのは死体。そして固定カメラ/モノクロ映像による人肉食いの場面は『赤ん坊の食事』風。フィルム傷やコマ落ちもまた味となってイイカンジだ。もちろん死体はリュミエールら撮影隊にも向かってくる。当時は手持ちカメラなど存在しない時代。慌ててカメラと三脚を抱えながら逃げ出す彼ら。映画創世期の、ほのぼのとした風景。想像するだけでワクワクしてくる。

 ……おっと、そうこうしているうちに事故現場に救急車が到着した。まずレスキュー隊の手で血まみれの運転手が引きずり出される。カメラに気づいた運転手が叫ぶ「撮ってんじゃねぇよ!」 あっ、まだ生きてたんだ。そういえばゾンビたちも随分とえらい形相でうめきながらカメラに向かってきてたな。声帯も腐ってるだろうからコトバにはなっていないが、彼らはきっとこう主張したかったんだろう「見世物じゃねぇ!」と。

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When I showed Rip Taylor this picture he said, “The woman at the back is whispering, ‘I love black people’.”

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Though I have no proof, I get the feeling this is a Puerto Rican East Village native who broke out of the idiot North Face/Rocawear mold and started her own thing. Darwin would be proud.

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