壁には “ロール・ディープ” の殴り書きがある。 Photos by Cole Estrada




第三世界の国に住む奴らは音楽の趣味が最悪だ。今だにマイケル・ ジャクソンに夢中で、もうちょっと飛ばしてもジャネット・ジャクソンぐ らい。多分、奴らはトップ40を気にするよりも餓死したり殺されない ように注意する方が大切みたいだ。でも、ちょっとー、もしもし?少な くとも1990年以降の音楽に目を向けてみませんか? 「元々、他の文化が持つ伝統的なサウンドがあれば、西欧文化で今 何が一番アツイかなんて知らなくても大丈夫」って誰かが言ってたけ ど、そんな訳ない。NPR(アメリカのナショナル・パブリック・ラジオ)を 聴いてたら、2弦ギターのウェストアフリカンリズムに他のリズムと時 代遅れのドラムマシーンがミックスされた曲が流れてくる。こういうの は、きっと毎日2時間ぐらいの電力しかないボロ小屋に住むような奴が プログラミングしてるに違いない。でも、実際に音楽を作ってるのはマ イノリティーなんだ。27億人もの人々が腹減らして、教養も無いめちゃ くちゃな国にいるヤツらは、あんたにロビー・ウィリアムズは音楽界始 まって以来のベストシンガーだなんて言ってしまうんだよ。

貧乏な国ほど音楽も最悪だ。だからついこの間、世界中で一番最低 な国で知られるソマリアに行く事になって、とにかく楽しみ(こう、ゾッ とするような気分)だったのを覚えている。

そんな所に誰が好きこのんで行くんだって思ってるだろうけど、金を 払うから誰もサーフィンした事のないソマリア付近の波を試してこい( 俺はプロのサーファー)って言われたから仕方がなかった。

ソマリアが1993年以来、大規模に報道されたのはアーミーレンジャ ー達が首都モガディシオで暴動グループにバラバラにされたという事 件。ほら、映画『ブラック・ホーク・ダウン』ってあっただろ?あれは実話 を元にした映画だけど、それさえもソマリアじゃなくて大陸の反対側に ある安全なマリファナ生産地、モロッコで撮影されたんだ。

ソマリアのソー・ソリッド・クルー軍団の一人
ソマリアではみんなが殺しあって、ヤギのミートボールスパゲティを33 V1N 9 食べて死んでいく。別にここは人種差別が誇張された国じゃない。まぁ ネットで調べてみろよ。平均寿命も47だっていうから、石器時代の方が 長生きしたんじゃねーか?まず政府が存在しないから、法律を守る奴 もいなけりゃ、ビザを出してくれる奴もいない。ソマリアはエイズがは びこる、ウルトラバイオレントな地獄。な、俺が勝手にみんなマイケル・ ジャクソンを聞いてるだろうって思ってても変じゃないだろ? 楽しい旅行を促すかのように、飛行機の着陸寸前、俺のiPodが真っ 二つに割れて壊れた。その日の午後は音楽なしで、俺の取り巻きとソ マリアのエスコート(通称:一つ目の内戦退役軍人)を連れて出かける と、衝撃で髪が吹っ飛ぶようなものすごい光景を目にしてしまった。

ステレオでディジー・ラスカルをがんがんかけながら、空き地でサ ッカーをしてる子供達がいる。まぁ、これを読んでいて大した事じゃな いって思ってる奴らも多いだろう。でも、どの国とも比べものにならな いくらい最悪で、いっその事、木星とでも言ってしまった方がいいよう なこの国でディジー・ラスカルの“ボーイ・イン・ダ・コーナー”が大音響 でかかっているんだ。

俺たちはそのみすぼらしい子供達に近づくと、ソマリア語にアラビ ア語と英語を混ぜて、基本的なコミュニケーションをとる事が出来た。 彼らにその曲が好きかと聞くと、一人が親指を立てて「ディジー、ベディ ーナイス、ディジー、ベディーグッド」だって。どこでテープを手に入れ たのかと聞くと、一番背の高い奴が違う子を指差して「バリ、バリ」って 言う。「バリ?」(後で単に方向を意味する事だって分かった)それから、 彼のいとこかおじさんかがディジーのクルーだってぬかすんだ。

もう少しで、ふざけんなよって罵倒する寸前に何となく説得力のあ る事実を突きつけられてる気がした。理由の一つは、向こう側の空き 地から“フィックス・アップ、ルック・シャープ”が大音響で流れている。 2つ目は、『バリ』のステレオの上には“ロール・ディープ・クルー”って 殴り書きがある。3つ目に考えたのは、何で奴らが嘘をつく必要があ るのか?ここはソマリアだぜ。

その夜、ちょっとしたリサーチをしてみると、この国の人気イベントが 病気や殺人の他にも国外亡命だって事が分かった。ソマリア難民はオ タワのゲットーからストックホルムまでこぞって移り住み、イギリスに も行き着いて、ロンドンのアンダーグラウンドからガルカヨまでグライ ムやガレージミュージックのネットワークを広げたんだ。

次の日も“ロール・ディープ・クルー”を見つけた。彼らが言うには“デ ィジー”はこの辺一帯を牛耳っているらしい。たまにワイリーなんか を聴くオタクもいるみたいだけど。この子達が一番嫌いなのは女々 しいソー・ソリッド・クルーのファンがいろいろ仕掛けてくる事で、こ の街の向こう側にショップをやってるソー・ソリッドファンの男がいる という。彼らが言うには、たまにこの男の家に石を投げて飼い犬を殺 しに行くらしい。そう、オールドスクールのUKガレージかニュースク ールのUKグライムかで揉めてる国がイーストロンドン以外にもある んだよ。

ソマリア人はアメリカンラップがあんまり好きじゃない。少なくと も聴くのはNWAかスヌープぐらいで、50セントやパフィーなんかは もっての他らしい。アメリカン・ラッパーは貧乏であほだらけの“ニガ ーズ”って話していた。「僕らは“ニガー”じゃない」らしいから、あんな のは聴かないんだって。

どうも『バリ』って奴は、ロンドンにいいコネクションがあるみたいだ った。彼は家に戻ると“ディジー”のレコーディングセッションなんかの 今までリリースされた事のないテープの山を持ってきた。あのテープ はニューヨークの熱狂的なグライムファンが聞けば、汗かきもんのや つだ。サンプルがクリアーじゃなかったか何かで、おそらくレコードに はならなかったんだろう。クオリティー自体は最悪だったけど、音量を あげるとロール・ディープ・クルーが空から音楽が降ってきたかのよう にジャンプしたりダンスしまくる。僕たちは、この世界一最悪な都市の 小汚いストリートで、西欧文化が生んだ最も進化した音に反応しての りに乗っている子供達とつるむ事になった。

僕たちはそれから、向かい側の街に住む彼らのライバル、ソー・ソリ ッド・クルー派の男を見に行く事にした。ちゃんと子供達が行き方を教 えてくれたし、彼のショップがクソみたいだっていう情報も当たってい たからすぐ見つかった。彼の英語はめちゃくちゃだったけど、相当ソー ・ソリッドを慕っている様子。そこで、女もんのピンクのサテンジャケッ トをまとった彼を落とす事にした。

「ソー・ソリッド・クルーのファン歴は、どのくらい?」と僕(ソー・ソリッ ド・クルーは英語で、後はソマリア語とアラビア語を混ぜながら)。

「長いよ」 「どこでこれをゲットしたの?」 「ブラダー(ブラザー)」 「ディジー・ラスカル好きの子供達をどう思う?」 「ファック」 これで分かるだろ。こんな地獄の真中でディジーかメガマンのどっち がいいかなんて言いあってるんだ。まぁ、けんかを引き起こすと面倒 なので、クソみたいな水が入ったボトルを手にして「どうなってんだ?」 って思いながら、静かに部屋を出た。

HERP J.T. SMITH
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