MOVIE REVIEWS


(C) 2008 KIMMEL DISTRIBUTION, LLC All Rights Reserved.

『脳内ニューヨーク』
常に時代の6.35年先をナナメ12度で突っ走る脚本家チャーリー・カウフマン初の監督作品。内容が内容なだけに賛否両論激しく分かれる作品として騒がれるコト間違いなしだが、少なくともオレの中ではDIRECTORS LABELシリーズとして数年前にスパイク・ジョーンズやクリス・カニンガムとともに発売され、世の美大生たちに儚い夢を見させてくれたミシェル・ゴンドリーのDVDよろしく“天使のスペルマでもブチまけられているかのように未来への可能性しか感じられない作品”として歴代お気に入りカルト映画トップ10に堂々のランクイン。見終わった直後には、すぐにでもニューヨークまでひとっ飛びしてカウフマンを全力でハグしたい気持ちでイッパイとなった。
 おおまかなストーリーはこうだ:劇作家・ケイデンは或る日、偉大な賞を受賞する。そうして得た賞金をもとに“巨大な倉庫内に構築した擬似ニューヨークの中で自身の人生再現演劇を行なう”といったプロジェクトを発案。そのプロジェクトの構造上、当然ながら“ケイデン役”も必要というコトで自分役の役者を募集するケイデン。そうしてストーリーはメタ構造を孕み、現実と演技が曖昧になっていき、段々と演劇に飲み込まれていく。
 ココで話を複雑にしているのが、本作の登場人物と演劇におけるそれが互いに同じフィールドで演技し出すという点だ。例えば、演劇指導をするケイデンのすぐとなりで“ケイデン役”が“演劇指導するケイデンのマネ(演技)”をしている。コレはつまり、“ケイデン役”が現実世界にもその足を踏み入れているコトを意味しているんだ。
 しかし本作を観るオレたちにとってみれば、そのどちらも“演技”という点で等しく、こうしたメタ構造が時差も無い中同じ時間軸で進行していくため、その区別も曖昧なままストーリーはブラックホールへと突入。しまいにはホンモノのケイデンすら“劇中でのケイデン以外の登場人物”を演じ始め、いつのまにか主人公が主人公たる所以を失ってしまう。
 カウフマンが巧みなのは、オレたち観客がその“狂った世界”を目の当たりにしても「コレはおかしいだろ! ありえない設定だ!」なんて言えるだけの自信を無くすよう、初めの数十分に“理由なき伏線”を幾重も張り、オレたちが培ってきた現実世界のルールをジワジワとブチ壊してくる点だ。というのも、始まって数分のあいだに非日常的かつインパクトのあるアクシデントがケイデン一家を襲うんだが、その全てがメチャクチャ意味深に見えて、実はまったくのナンセンス:娘・オリーヴが或る朝催すグリーン色のウンチ、ケイデンが生涯かけて愛する女性・ヘイゼルの住む“ 燃えている家”(だけど全篇を通して何十年ものあいだ燃え朽ちるコトなく火の点いたまま建っている)。それらがあまりにも強烈すぎて伏線以外の何者でもないように思えてしまうが、それらは“ストーリーにおける伏線”というよりむしろ“オレたちの感覚をマヒさせるタメの構造上の伏線”に過ぎない。だからそれらの意味を理解しようと躍起になった時点で、すでにカウフマンの魔術にかかったと言ってイイだろう。
 とは言え、そうしたカオスな世界観を見せつけたくてカウフマンはわざわざこの映画を作ったワケじゃないと思うんだ。というのも、こうしたメタ構造をテーマに繰り広げられるケイデンという1人の男の人生は、演劇という箱庭の中で敢えて本人が第三者の立場から見てみることで初めて客観視できるとも言えるからだ(現にケイデンは最終的にちゃんと自分自身へと戻るしな)。自らの人生を走馬燈よろしく一瞬にして振り返り、幽体離脱という“死の世界5秒体験コース”を経て初めて分かる“人生”。それを描がくためにもメタ構造はカウフマンにとって不可欠だったんだろう。オレも幽体離脱とか体験したコトないけどさ、体験したコトのないモノを描がいてこそ映画ってモンだろ?
 実はこんな恣意をオレに与えてくれたのが、本作の原題『Synecdoche, New York』にある“Synecdoche(シネクドキ)”という1ワードだった:一部で全体を、あるいは全体で一部を表現する比喩を意味するこのコトバ。つまりはニューヨークに住むケイデンという1人の男をコマとし、擬似ニューヨークという限られた箱庭での演劇を舞台に、ケイデンの一生はもちろんのコト、人の一生そのモノを示唆する。コレこそがカウフマンにとっての“シネクドキ・ニューヨーク”だったのかもな。
 とにかく本作は分かりにくいし、何回か観ないと納得できない作品だと思う。だけど、例えばロンゴロンゴ文字をいきなり提示されて「さあ解いてみろ」と言われた時に「ああ、やってやろうじゃん!」と思える人には最適な映画だろう。そして自分なりの解釈が閃いた時、なににも代えがたい快感ってヤツを味わえるんだ。そうでなくても最近は誰もが世に溢れる大量のメディアから中身のないスカスカの情報を受動しすぎて“アタマ最大/知恵最小”になっているんだから、少しぐらい意味の分からないモノが目の前に現れたとしてもすぐに諦めないで欲しい。持ち合わせた知識だけで理解しようとするんじゃなく、その情報をコネコネするコトで生まれる知恵ってヤツで少しは自分なりの感想を導き出してくれよ(コレはネット上で本作を「意味が分からない!」とレビューしているクズどもに贈るエールだ)。
 とにかくオレは映画にまだまだ可能性を求めたい。映画でワクワクしたいんだ。そしてそれを可能としてくれるのはCGや最新の機械でなく、人のアイデアだ。それはここ十数年のあいだに生まれた映画の出来が物語っている。デバイスや技術にブレるコトなく、自分自身のアイデアってヤツを最後まで信じ切ったカウフマンにオレは5つ星を与えたい。
TOMOKAZU KOSUGA

11月、シネマライズほか全国ロードショー







Post a comment:


(posts that are not on topic will be removed)

Name:
Subject:
Comment:





Vice Newsletterに登録しよう!

 

This Vivienne Westwood rip-off is from Beijing’s Underground City bomb shelter. Apparently after a nuclear war everyone is going to look like Melanie Griffith if she sang for Chaos UK.

Comments/Enlarge
See all


9/11, global warming, droughts in the rainforest, tsunamis, UPC symbols, and now girls in thigh-high stockings are blowing World of Warcraft gamers? Does Christ have to punch you in the balls before you accept him as your personal saviour?

Comments/Enlarge
See all



ARGENTINA | AUSTRALIA | AUSTRIA | BELGIUM: FRANÇAIS/NEDERLANDS | BRASIL | BULGARIA | CZECHOSLOVAKIA | CANADA: ENGLISH/FRANÇAIS | DEUTSCHLAND
ESPAÑA | FRANCE | GREECE | ITALY | 日本語 | MEXICO | NETHERLANDS | NEW ZEALAND | PORTUGAL | SCANDINAVIA | SCHWEIZ | SOUTH AFRICA | UK | US

HOME | MAGAZINE | DOs & DON'Ts | BACK ISSUES | ABOUT
© 2004-2009, Vice Magazine Japan| Privacy Statement | Site Development: Solid Sender